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Special Interview 田辺 綾子 さん

長年にわたる園芸愛好家として、植物への造詣が深い田辺綾子さん。その知識・経験を生かし、植物を育むことを通した子どもたちへの食育活動も展開しています。全国でもまだめずらしい「エディブル・スクールヤード」の取り組みを倉敷でスタートさせた田辺さんに、お話をうかがいました。

Profile

田辺 綾子 さん

一般社団法人エディブル・スクールヤード・ジャパン プロジェクトディレクター
NPO法人岡山県木村式自然栽培実行委員会 事務局
20代の頃よりガーデニングを始め、庭づくりは「土」が大切という事実にたどり着くまで、さまざまな栽培法を試行錯誤。2009年、「自然栽培」に出合い普及活動に参加する。2018年より、一般社団法人 エディブル・スクールヤード・ジャパンの活動に参加。

 

 

「食育菜園」を活用して食と自然のつながりを学ぶ

2018年度は、倉敷市内の公立小学校で初めて「エディブル・スクールヤード」の取り組みを行いました。11月と2月の2回、子どもたちと一緒に、校庭にガーデンを作って麦を植えたり、農業や工芸の体験をしたり。念願だった学校の校庭での活動を、想定より早く実現でき、うれしく思っています。

 

「エディブル・スクールヤード」という言葉には、なじみがないかもしれませんね。「食育菜園」とも表現されますが、これは校庭に菜園をつくり、学びの場とする取り組みです。「育てること、食べること」をベースに、自然界といのちのつながりを、子どもたち自身の体と心で感じ、頭で考える教育実践。野菜の育て方の指導のみを目的とするものではありません。日本では、2014年に一般社団法人エディブル・スクールヤード・ジャパンが設立され、この教育プログラムを広げる活動を行っています。

 

豊かな土壌を整えたら 植物が育つ力を信じ見守る

園芸好きの父の影響で、子どものころから植物は常に身近な存在でした。大人になってからは、自宅の庭でガーデニングに勤しむ日々。日本で初めてオープンガーデンを根付かせた「イエローブック岡山」にも参加し、庭づくりを通して多くの方々と交流を楽しんでいました。でも、さまざまな植物を育てるなかで、どんなに手をかけてもうまく育たないことも。その原因を知りたくて、あれこれ専門書を読むうちにたどり着いたのが、「土の大切さ」でした。よい土のもとで育つ植物は、根がどんどん太くなり強くたくましくなります。そうなると肥料や薬剤は必要なくなるんですよ。豊かな土壌を整えたら、あとは手をかけ過ぎずに、植物自身が育とうとする力を大切にする。これは、子育てにもつながる考え方かもしれませんね。

 

土の大切さを実感していたころ出合ったのが、肥料・農薬・除草剤を使用しない「自然栽培」。岡山で、自然栽培による米づくりが始まろうとしていました。園芸家としてもそうですが、ひとりの母親として「これは絶対によいものだ。こういうものを食べていたら、子どもたちの心身が健やかに育つに違いない」という直感が働き、自然栽培の普及活動に参加。それを機に、自宅の庭と畑も自然栽培に切り替え、自然の摂理に寄り添った庭づくりを続けています。

 

子どもたちに手渡したい「自然と農と食のある暮らし」

趣味としてガーデニングを楽しむ一方、仕事として、子どもを対象とした習いごと教室に従事した中で、子どもたちを取り巻く環境の変化と、それによる影響を実感するようになりました。「子どもたちに、自分は何を残せるのか」。次第にそう考えるようになったんです。私自身、子育て中も食を重視してきた経験から、子どもたちには「食べること」を大切にしてほしい。どんなものを食べるのかを自分で選び取るセンスを身につけてほしい。そのために私ができるのは「自然と農と食のあるライフスタイル」を子どもたちに示すことです。

これまで植物から教えられたこと、食と向き合ってきたことを生かして、子どもたちがわくわくする「もの」や「こと」を手渡していけたら。「エディブル・スクールヤード」の理念に私が共感したのは、そんな思いがあったからなのです。一昨年から、「エディブル・スクールヤード・ジャパン」の勉強会に参加したり、東京のモデル校で活動を体験したりして見識を深める一方、実践の場として、自宅の庭で「&ガーデン 庭の教室」を開催。身近にある植物からのメッセージを五感で受け止めるセンスを磨くべく、参加してくれた子どもたちとさまざまなことに取り組んできました。その実践に共感してくださった方からご縁がつながり、冒頭で述べた公立小学校でのエディブル活動が実現したのです。

 

エディブル活動によって 学びの「点」を「線」につなげる

エディブルプログラムの大きな特徴は、国語・算数・理科・社会・芸術など、学校の教科指導と紐づいていること。活動のなかに多様な要素を取り入れ、教科の勉強に向かう種まきをしています。単なる農業体験や自然体験とエディブルが大きく違うのは、教育的視点が深く検討されているところです。カリキュラムをしっかり作成したうえで、活動内容だけでなく、活動しながらどこでどんな声掛けをするか、または黙って見守るかなど、慎重に検討しています。ナビゲーターには、専門的知識のほかに、伝える技術も必要なので責任重大。私もまだまだ研鑽の日々ですね。

 

私は、エディブルの活動のことを、学校での教科学習や経験を通して知ったことの「点」と「点」を線でつなぐようなものだと感じています。線がどんどんつながっていくことで、世の中のことが見え、「自分たちが今勉強することの意味」を感じとれるのではないでしょうか。そのうえで「自分はどんなものを食べたいか、それはなぜか」。その答えを子どもたち自身が見つけてくれると期待しています。そのためにも、エディブルの活動を広げ、すべての学校で校内のどこかに必ず菜園がある状態をつくっていきたい。それが私の目標です。

 

 

ドンブラっこ 2019年春号(vol.13)より転載

 

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